小さな乾杯

あなたを待って、改札口に立っていた。到着

時間が近づくと、心臓が高鳴り、手に汗をか

いて、切ない気持ちがおおきくなって、心が

泣いていた。

いとしさが僕を、押し倒そうとする。足に力

を込めて、それでも改札口に立っていた。

列車から降りてきたあなたを見つけたとき、

悲しみが、人の流れと一緒に去り散らばって

いった。

涙がこぼれそうな想いをこらえて、笑顔を作

ろうとした。弱みをみせたくなかった。平然

と、元気にしていたよと、笑顔にメッセージ

を乗せたかった。

そうしたら、あなたは、手を、ぎゅっと、握

って、微笑んだ。

「よう!」

「よっ、よう!」

赤い唇がまぶしくて、赤いピンヒールがまぶ

しくて、笑顔が太陽みたいだった。

それ以上、言葉を交わすと、泣いてしまうに

決まっている。無言で並んで、いつもの店に

向かった。やっと逢えたため息が、言葉を閉

じ込めていた。

駅前の喫茶店で、向かい合わせに座った。凍

りついたコーヒーに、優しい指先でミルクを

注いで手渡してくれた。ぬくもりを見つけて

嬉しくなった。

 

小さな乾杯で、

こぼれたテーブルの上が輝いた。