幾何学模様の罠

庭先に蜘蛛の巣を見つけた

網にジグザグなものを

円盤状にひろげた隠れ帯に

1匹の蜘蛛が身を潜めている

その姿と巣の特徴から

コガネグモ属の蜘蛛だろう

大きさから察するに

まだ幼い蜘蛛に違いない

美しい幾何学模様の

罠の真ん中で

静かに風に揺られ

獲物がかかるのを待っている

幾何学模様の罠に

小さなモンシロチョウが

捕囚された

蜘蛛はそろりそろりと近づいて

獲物を噛み砕いてしまうのだろう

生物界の摂理に従った所作

怯えながら身動きの取れない

モンシロチョウは覚悟した

ところが

蜘蛛は牙のような口で

キスをした

モンシロチョウは

ことさら震えが止まらない

すると

蜘蛛はその周りの罠の糸を

一つ一つ切り離し

モンシロチョウを逃してやった

幾何学模様の破綻を修復して

罠の中央に戻っていった

蜘蛛は眠りに着いて

夢を見ていた

夢の中で

蜘蛛は蝶々になって

真白な花の周りを

おどけながら飛び回った

突然、白い光が放たれて

モンシロチョウの羽に包まれた

本当は自分は蝶々なんだと考えた

しばらくして

蜘蛛は目を覚ました

その光は

逃してあげた

小さなモンシロチョウからの

メッセージだったのか

再び

幾何学模様の真ん中で

静かに風に揺られていた

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