知己
蜘蛛が糸を垂れている。蜘蛛が風に揺られて
いる。蜘蛛は行き場を失って、戸惑い悩み、
考える。振り子になって糸を巻き、円錐形の
軌跡に身をまかせて、次第に楕円形の弧を描
き、身体を丸めて潔く、ケプラーは偉い方よ
と笑いを噛み締める。
振り子に戻った瞬間に、八つの足で凹凸の激
しい壁にしがみついた。罠を仕掛けるのは諦
めた。
強い風が再来すると、蜘蛛は足を離して糸を
伸ばし始めた。どこまでも、どこまでも、糸
を伸ばし続けた。ビルの谷間を抜け、街並み
をかわし、川を越え、山並みの上をひき飛ば
して、高く高く宇宙のてっぺんを目指した。
青空に白い雲。糸がもつれてたどり着いた。
見上げると青い空。まだ先があることに気が
ついた。蜘蛛は雲があるごとに、糸をかけな
がら飛んでいく。
残していった糸の上を雨水が走ると、地上か
らはきれいな虹が映って見えた。蜘蛛は虹を
見上げる人達のきれいな瞳に心を打たれ、雲
から雲へと虹を創り続けた。