象牙海岸
赤道に比較的近い
熱帯の海岸にたたずんで
大きな夕陽を見ていた
おそらく人類の起源も
この海岸に
たどり着いただろうと
有史の遠さを想像していた
夜のとばりが
ベルベッドのシーツを
横たわった身体に
そっと
掛けてくれているようだった
睡魔に引きずられながら
星空を眺めていた
そのとき、
記憶は定かではないが、
たしか
一頭のゾウが近づいてきて
そばに座り込んだ
君も波の音を聞きに来たのかい
君も星空を眺めに来たのかい
そうたずねてみたが
何一つ答えず
ただ大きな瞳から
涙を流していた
おれの象牙だよ
探しに来たのさ
でも、やっぱり、なかったさ
今頃は船の上
遠くの街に運ばれる途中だろう
そう言って寂しげにひと鳴きして
どこかへ行ってしまった
砂浜に残された足跡が
やけに綺麗だった