赤いため息
あたしは、人魚になる
その日も赤いため息で、始まった。素肌には
シーツだけが絡みついて、寝起きの汗が首を
締めた。毎夜、人魚になる夢を見続けていた
せいで、シーツを巻き付けて寝るのがくせに
なっていた。
眠れぬ夜には空を見上げた。アンタレスの居
場所を追いかけて、うなじにかかる長い髪を
整えた。
眠れぬ夜には貝殻を耳に当てた。きまって、
あの砂浜の波の声を思い起こした。
あたししか知らない夜空の虹。あたししか知
らない流星のふりをしたあなた。流星が夜空
の虹をかけぬけて、あたしの瞳に流れて落ち
る。あたしはいつも受け止めて、うろこを一
つ二つ増やしていく。
わたしは、人魚
その日も赤いため息で、始まった。足もとに
美しい貝殻がちりばめられ、不自由な足をば
たつかせて、目が覚める。
毎夜、あなたに逢う夢をみて、こころは清め
られていく。
わたししか知らない夜空の虹。わたししか知
らないあなたの横顔。アンタレスの隙間から、
あなたは微笑んだ。
人魚の私は流星と手をつないで、虹の彼方で
宇宙になる。赤いため息は何処にもいない。