魂が他人の手に渡っていた

魂が、いつの間にか他人のもとに

売られてしまっていた

 

なんということだろう

自分が信頼していた人たちから

 

絶望と不信感の中

たまたま通りかかった

老人がうれしそうに旅行に行ってきた

写真を見せてくれた

沢山のアフリカの子供達と老人の笑顔

自慢げだった

 

小児科医の私はつい、口を滑らせた

ご旅行の費用はおいくらでしたか

100万円ほどです。

そう言って、去って行った

 

私はその写真を見て、微笑ましい純真な

子供達の顔にとてもうれしい気持ちがした

しかしすぐさま、

 

その写真に写っている子供達のうち、

いったい何人が大人になれるのだろう

そう思うと、こんどは悲しくなった

 

私なら、どんな理由であれ

国際協力の形でなければ

アフリカへ旅行はしないだろう

と考えた

 

旅費にかかる100万円を寄付すれば、

ワクチン1ドルとして

1万人近くの子供達の病気が予防できて

写真の笑顔のまま、

大人になれる子どもの数が増えるだろうに・・・

そう、考えていた

 

他人のことをとやかく言うつもりはないが

語り口調から察するに

この老人は、そういう現実を

認識していないのだろうなあと

感じた

 

突然、老人が私の所へ戻ってきた

見せ忘れた写真があると

 

これは、あなたの魂ではないですか

あなたは家族に悲しい思いをさせている

らしいですね

自己破産するなら相談に乗りますよ

 

そう言い残して、再び去って行った

 

私は、自分の魂を奪い返し

この老人とは二度と接点を持たないようにしようと

心に誓った

 

私の魂が売られていた

それが写真に納められていた

 

アフリカの笑顔の子供達の写真

の続きに

 

魂が、いつの間にか他人のもとに

売られてしまっていた

 

なんということだろう

自分が信頼していた人たちから

 

私は自分の魂を自分の中に再び戻し

これからは

いったい誰を信頼すればよいか

思索にふけった

 

戻ってきた魂は傷だらけで

ほどよく元に戻るには

時間がかかりそうだ

 

その老人とすれ違った道だけは

生涯通らずに過ごそうと考えた

同じ空気を吸うことさえ嫌悪感を

感じるから